人間の生活に寄り添う医療現場を見て
医師

梅雨真っ只中の月曜日(終日)、1日という短い間でしたが、見学に伺わせて頂きました。普段、急性期総合病院で医師として病棟や外来で勤務していると、長期入院を要する症例、回復期リハビリテーション病棟や療養型病棟へ転院していく症例、元気に自宅へ帰られる症例、、、様々な患者さんと関わる機会があります。しかし、入院にしろ外来にしろ、その患者さんと関わる時間はほんの僅かなものであり、検査データや身体所見をにらみながら、疾病を抱えた病人としての側面しか見ていないのではないか、という葛藤を覚える瞬間が生まれます。私にとって、それがこの度の見学の動機付けとなりました。
今回、訪問診療の現場に実際に同行させて頂くことで、その患者さんと御家族の医療への考え方、家族関係、住む地域の特徴、自宅の構造など、様々な視点での気付きがありました。訪問診療を必要とする患者さんは、疾患分類としては悪性腫瘍や認知症、脳血管障害など、様々な病名を持っておられます。しかし、実際にお会いする患者さんや御家族からは、病名云々ではない人間らしさが強く感じられました。それは、不安を抱えながらも最後まで家で過ごすという選択をされた患者さんの意思の強さが垣間見える一方で、医療を提供する側の姿勢も一因であると思いました。
つばさクリニックの医師・看護師の皆様は、訪問するお宅の玄関で(当然のことですが)靴を脱ぎ、「お邪魔します」と声をかけながら家の中へ入っていかれます。また室内では、畳や板の間に膝をつき、患者さんと同じ、もしくは少し下の視点から、挨拶をし、様子を聞き、診察へと移っていきます。患者さんへ向ける表情や声のトーンが、これまで私が経験した医療現場とは異なるのです。患者中心の医療とは良く聞く言葉ですが、病院でのそれは、患者さんが生活をいわば犠牲にして、医療に対して歩み寄った結果に思えます。訪問診療の現場では、医療が患者さんの生活に対して寄り添っている、それが故に、人間らしさが損なわれない医療が実践できている。そんな風に私は感じました。
行える検査や処置、投与できる薬剤には勿論制限があるのだと思います。その中で患者さんの生活を支えるためのベストを尽くす医療のかたち、これを実践されている現場を見学することができ、本当に有意義な時間であったと思います。整備され診療現場でも活躍する電子カルテシステム、自宅でも可能な処置・検査の範囲の広さ、医療者側の負担も考慮されたグループ診療の体制など、驚くべき点は多々あるのですが、私が一番に感じた内容を感想として書かせていただきます。この度は貴重なお時間を頂き、本当に有難うございました。

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